残業の上限と36協定:その特別条項、
有効に結ばれていますか
残業・時間外労働のルールは、技能実習生・特定技能外国人だけの特別なルールではなく、日本人労働者と共通の労働基準法によるものです。会社が残業をさせるには、労働者側との「36協定」という書面の合意が必要で、臨時的な事情がある場合の例外(特別条項)にも、法律で超えられない上限があります。ここでは「特別条項の時間を超えて働かされていないか」という問いの前に、もう一段階手前の「その36協定は、そもそも有効に結ばれているか」から確認し、政府の公表資料で実態と本人ができることを並べます。
この記事の要点
- 残業をさせるには36協定が必要で、原則の上限は月45時間・年360時間です。
- 臨時的な特別条項を結んでも、年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回まで、という絶対的な上限は超えられません。
- 36協定の労働者側代表は、投票・挙手等の民主的な手続きで選ばれている必要があります。連合の2024年調査では、この選出方法のうち51.4%が会社の指名など不適切な方法でした。
- 令和6年の監督指導では、技能実習生を使用する事業場の73.2%、特定技能外国人を使用する事業場の76.4%で労働基準関係法令違反が見つかっています。
- 疑問があれば、本人が有効性を証明する必要はありません。労働基準監督署への申告やOTIT母国語相談などの窓口があります。
1. 残業をさせるには「36協定」が必要
労働基準法は、労働時間の原則を1日8時間・1週40時間と定めています(法定労働時間)。これを超えて働かせる場合、会社は労働者側と「時間外労働・休日労働に関する協定」(労働基準法36条に基づくため「36協定」と呼ばれます)を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定を結ばずに残業をさせること自体が、労働基準法32条違反です。
36協定で定められる時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」 p.3-4
2. 臨時的な例外「特別条項」にも、超えられない上限がある
「通常予見することのできない業務量の大幅な増加」など、臨時的な特別の事情がある場合に限り、労使が合意すれば月45時間を超える残業ができます。これが「特別条項」です。ただし、特別条項を結んだとしても、次の上限は超えられません。
| 項目 | 上限 |
|---|---|
| 時間外労働(年間) | 720時間以内 |
| 時間外労働+休日労働(単月) | 100時間未満 |
| 時間外労働+休日労働(2〜6か月平均) | いずれも1か月あたり80時間以内 |
| 月45時間を超えられる回数 | 年6回まで |
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これらの上限に違反した場合、6か月以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
出典:前掲パンフレット p.4
3. その36協定、そもそも有効に結ばれていますか
36協定は、会社が一方的に決めるものではありません。締結する労働者側の当事者は、①労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)があればその組合、②なければ「過半数代表者」と定められています。
過半数代表者が適法に選ばれたと言えるには、次の条件を満たす必要があります。
- 管理監督者でないこと
- 36協定を締結する者を選ぶことを明らかにした上で、投票・挙手等の方法で選出されること
- 使用者(会社)の意向に基づいて選出された者でないこと(会社による指名や、社員親睦会の代表が自動的に選出されることは、不適切な選出に当たります)
出典:前掲パンフレット p.12、厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A(社長の指示で親睦会代表が労働者代表になっているケースについて「法令に反することになります」と回答)
実際、社内の親睦団体の代表者がそのまま自動的に労働者代表となっていたケースで、36協定が無効と判断された最高裁判例もあります(トーコロ事件、最高裁第二小法廷、2001年6月22日、労働判例808号11頁)。
同じパターンが今も起きているかどうかを示す調査があります。連合(日本労働組合総連合会)が2024年7月19日に公表した「『働き方改革』(労働時間関係)の定着状況に関する調査2024」(15歳以上の正社員・契約社員・派遣社員1,000人を対象に、2024年5月30日〜6月3日にインターネット調査を実施)によると、勤め先で36協定が締結されていると答えた443人のうち、締結当事者は過半数労働組合45.1%・過半数代表者24.2%(「わからない」30.7%)でした。さらに過半数代表者が締結当事者になっている107人に選出方法を聞いたところ、適切な方法である「挙手または投票」は35.5%にとどまり、「会社からの指名」27.1%、「一定の役職者が自動的に就任」14.0%、「社員会や親睦会などの代表が自動的に就任」10.3%と、不適切な方法が合計51.4%を占めています。
同じ調査では、36協定が締結されている職場で働く人のうち、自分の職場の「1年間」「1か月」いずれかの残業時間上限を「正確には知らない」人が44.0%にのぼることも分かっています。
出典:連合「『働き方改革』(労働時間関係)の定着状況に関する調査2024」(2024年7月19日公表)
つまり「特別条項の時間を守っているかどうか」を確認する以前に、その土台となる36協定自体が、有効性の要件を欠いたまま結ばれている可能性が、一定の割合で存在します。
4. 特別条項は「臨時的」が前提で、常態化を想定していない
2019年の法改正とあわせて、36協定で定める時間外労働・休日労働について留意すべき事項に関する指針が新たに策定されました。この指針は、特別条項の運用について次のように定めています。
- 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめること
- 限度時間(月45時間・年360時間)を超えて労働させる必要がある場合を定めるに当たっては、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」を、できる限り具体的に定めなければならない
- 「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」など、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものは認められない
- 限度時間を超える場合でも、時間外労働はできる限り限度時間に近づけるよう努めること
出典:前掲パンフレット p.8-9
つまり制度上は、特別条項が「毎月当たり前に使われる状態」になること自体が、指針が禁じている運用に当たります。特別条項の理由欄に「業務の都合上必要なとき」のような恒常化を招く書き方をすること自体が、指針に沿わない扱いです。
5. それでも起きている実態
厚生労働省は毎年、技能実習生・特定技能外国人を使用する事業場に対する労働基準監督署の監督指導・送検の状況を公表しています。令和6年の公表分は次の通りです。
| 区分 | 監督指導を実施した事業場 | うち労働基準関係法令違反があった事業場 | 送検件数 |
|---|---|---|---|
| 技能実習生関係 | 11,355事業場 | 8,310事業場(73.2%) | 16件 |
| 特定技能外国人関係 | 5,750事業場 | 4,395事業場(76.4%) | 7件 |
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技能実習生関係の主な違反事項は、(1)使用する機械等の安全基準(25.0%)、(2)割増賃金の支払(15.6%)、(3)健康診断結果についての医師等からの意見聴取(14.9%)の順でした。
送検事例として、自動車整備工場が技能実習生に月100時間を超える違法な時間外労働をさせたうえ、監督指導の際に虚偽のタイムカードを提出していたケースが公表されています。
出典:厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況を公表します」
公表されている主な違反事項の上位3つは、時間外労働の上限そのものよりも安全基準・割増賃金・健康診断が占めています。これは「時間外労働の上限超過」が起きていないという意味ではなく、公表資料がこの3項目までしかランキングを示していないためです。上限超過そのものの件数・割合は確認できていません。
6. 本人ができること
36協定の有効性や特別条項の運用に疑問がある場合、本人が法律論を組み立てて有効・無効を証明する必要はありません。疑わしい事実を伝えれば、判断は労働基準監督署が行います。
- 36協定の内容を確認する — 会社は36協定を労働者に周知する義務があります(労働基準法106条)。労働者代表が誰で、どう選ばれたかを確認できます。前掲の連合調査では、36協定がある職場で働く人の44.0%が自分の残業時間の上限を正確には知らないという結果も出ており、まず確認すること自体に意味があります
- 労働基準監督署に申告できる — 労働基準法違反の事実がある場合、労働基準監督署に申告する権利があります(労働基準法104条)。申告したことを理由にした解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています(同条2項)
- 割増賃金の請求権は、協定の有効・無効と別に存在する — 働いた時間外労働分の割増賃金は、36協定が無効であっても請求できます。賃金請求権の消滅時効は、当分の間の経過措置として3年です
- 自分の記録を残す — 会社側の記録が実態と異なっていた送検事例があるように、自分自身の出退勤メモや写真などの記録が重要になり得ます
- 相談窓口(無料)
- 外国人技能実習機構(OTIT)母国語相談:電話・メール対応。ベトナム語を含む多言語
- 労働条件相談「ほっとライン」:14言語対応、平日17:00〜22:00・土日祝9:00〜21:00。ベトナム語窓口:0120-531-406
- 最寄りの労働基準監督署(平日)
出典:労働基準法、前掲パンフレット p.23、労働条件相談「ほっとライン」
まとめ
- 残業をさせるには36協定が必要で、上限は原則月45時間・年360時間。臨時的な特別条項を結んでも、年720時間・単月100時間未満・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回までという絶対的な上限がある
- その36協定の労働者側当事者(過半数代表者)は、投票・挙手等の民主的な手続きで、会社の意向によらず選ばれている必要がある。この要件を欠く36協定を無効と判断した最高裁判例もある(トーコロ事件)
- 連合の2024年調査では、過半数代表者の選出方法のうち51.4%が「会社の指名」など不適切な方法だった
- 特別条項は「臨時的」な例外という位置づけで、恒常的な長時間労働を招く運用は指針で認められていない
- それでも令和6年の監督指導では、技能実習生を使用する事業場の73.2%、特定技能外国人を使用する事業場の76.4%で労働基準関係法令違反が見つかっている
- 疑問があれば、本人が有効性を証明する必要はない。労働基準監督署への申告、OTIT母国語相談、労働条件相談ほっとラインなどの窓口がある
お金や契約のことで不安があるときは、母国語で相談できる公的な窓口があります。相談は無料です。まず、話してみるところからで大丈夫です。
外国人技能実習機構(OTIT) 母国語相談(ベトナム語)Tiếng Việt外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)Tiếng Việt出典
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(2021年3月)」jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000910679.pdf(取得 2026-08-01)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件 Q&A(過半数代表者の選出)」www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/roudoujikan/q11.html(取得 2026-08-01)
- 日本労働組合総連合会(連合)「「働き方改革」(労働時間関係)の定着状況に関する調査2024」jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20240719.pdf(取得 2026-08-01)
- 厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況を公表します」www.mhlw.go.jp/stf/newpage_63807.html(取得 2026-08-01)
- 厚生労働省委託事業「労働条件相談「ほっとライン」」public.lec-jp.com/roudouHotline/(取得 2026-08-01)
- e-Gov法令検索「労働基準法」laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049(取得 2026-08-01)
- 全国基準労働組合連絡会議(労働基準判例検索)「トーコロ事件(最高裁判所第二小法廷 平成13年6月22日判決、労働判例808号11頁)判例情報」www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07770.html(取得 2026-08-01)
更新 2026-08-01/次回見直し 2027-09-01。 内容は変動する可能性があります。この記事は一般的な情報の整理であり、個別の判断は上記の相談窓口へ。